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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)684号 判決 1961年8月31日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について、

本訴請求は、特許庁昭和三三年抗告審判第三〇四三号実用新案登録出願拒絶査定に対する抗告審判請求事件につき、特許庁が昭和三四年一二月二二日にした審決を取り消す旨の判決を求めるものであるところ、本件実用新案登録の出願は、最初上告人が単独でしたものではあるが、その後上告人は、登録を受ける権利の一部を松山茂三に譲渡し、昭和三三年一〇月六日特許庁に対し、出願人名義変更届を提出したため、それから後は、上告人と松山茂三の両名が共同出願人として審査及び審判を受けることとなり、本件審決も右両名に対してなされたものであることは、原審が適法に確定した事実によつて明らかである。

ところで、本件における事実関係が、すでに右のとおりであるとすれば、本件審決に対する不服の訴において、審決を取り消すか否かは、登録を受ける権利を共同して有する者全員に対し、合一にのみ確定すべきものであつて、その訴は右権利者が共同して提起することを要するものであること、原審判断のとおりであるといわなければならない。

しかるに、原判示によれば、本件の訴は、上告人一人が原告となつて提起したものであり、松山茂三は、昭和三五年一月一二日本件審決謄本の送達を受けながら、これに対する不服の出訴期間である同年二月一一日までに、訴の提起をしなかつたというのであるから、松山茂三は、もはや右訴を提起することを得なくなつたものというべく、従つて上告人が単独でした本件訴訟は、当事者適格を誤まつたものであるばかりでなく、もはやその欠缺を補正する途もなきに至つたものといわざるを得ない。

所論は、松山茂三は右実用新案の登録を受ける権利の持分を上告人に譲渡したのであり、上告人は昭和三五年二月一一日特許庁に対し、譲渡証書を添えて、出願人名義変更届を提出した旨主張するが、右届出が同日(すなわち本件出訴期間の最終日)特許庁に到達した事実を証明すべきものは何も存しない。(却つて、職権をもつて調査するに、特許庁が昭和三五年九月一日付で当庁に送付して来た「出願人名義変更届」と題する書面によれば、その翌日である二月一二日に到達したものであることが明らかである。)

してみれば、たとい上告人と松山茂三との内部関係において、所論のような権利変動の事実があつたとしても、その事実は、特許庁に対して主張できないのであり、本訴出訴期間内においては、松山茂三は依然として上告人と共に本件共同出願人の一人であつたといわざるを得ない。

そして本件審決は、共同出願人たる両名に対しなされたものであること、及びその審決に対しての不服の訴は、審決を受けた両名において提起すべきであるのに、松山茂三は遂いにこれに加わらなかつたこと既に前叙のとおりであるから、原審がこれを不適法として却下したからといつて、所論の違法があるというを得ない。

されば、その余の判断をまつまでもなく、論旨は理由なきに帰するから採るを得ない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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